貸倒損失の損金算入

 

1 要約

・貸倒損失の損金算入ができる場合は、法律上の貸倒れ、事実上の貸倒れ及び形式上貸倒れの3種類がある。

・事実上及び形式上の貸倒れについては通達において損金経理が求められているが、課税庁は損金経理がされていないことのみをもって更正をすることはできない。

 

2 貸倒損失の種類

(1)定義

 貸倒損失とは、倒産などにより、売掛金・貸付金などの金銭債権が回収できなくなった債権者の損失のことをいいます。

 

(2)税法上の取扱い

ア 共通の内容

 貸倒損失は、損失であることから、「当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの」にあたり、「別段の定め」があるもののほかは、「損金の額に算入すべき金額」となります(法法22条3項3号)*1

 この「別段の定め」としては、法法33条1項*2があり、原則として評価損を認めていません。したがって、売掛金等の一部を評価替えし、貸倒損失として計上することはできないこととになります。ただし、あくまで、評価損の計上を認めないものですので、その全部につき回収できないものとして損失を計上することは許容されます。

 許容される貸倒れがいかなるものかについては、法令及び通達に規定がありますので、以下でその類型ごとに述べます。

イ 法律上の貸倒れ

 更生計画認可の決定等一定の法律上の事由により債権の全部又は一部を切り捨てた場合の貸倒れをいいます(法基通9-6-1)。

 法法33条3項から、更生計画認可の決定があったことによって評価換えをしてその帳簿価額を減額した場合には、これを損金の額に算入するものとされてています。*3

 このほかに上掲法基通9-6-1に掲げる事由に該当すれば、それぞれの事由により切り捨てられることとなった金額の貸倒損失の計上をするものとしています。*4

 なお、この場合の貸倒れは、その規定ぶりからもわかるとおり、損金算入が強制されるのですので、損金経理がされていない場合減算処理が必要です。

 

ウ 事実上の貸倒れ

  回収不能となった金銭債権の貸倒れをいいます(法基通9ー6ー2)。

 債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合には、損金経理を要件に、貸倒損失の額を損金の額に算入することができます。*5

エ 形式上の貸倒れ

 取引の一定期間の停止等の形式的事情による売掛債権の貸倒れをいいます。

 法基通9-6-3に掲げる事由に該当すれば、損金経理を要件に、貸し倒れ損失の額を損金の額に算入することができます。*6

 

3 貸倒損失の損金経理要件について 

(1)損金経理の定義

 損金経理とは、法人がその確定した決算において費用又は損失として経理することをいいます(法法2条25号)。確定した決算とは、「定時株主総会による計算書類の承認(会社法438条2項)または定時株主総会に提出された計算書類の取締役による内容の報告(同439条)」をいいます(金子868頁)。損金経理要件を課されているものについては、申告調整のみによって損金の額に算入することはできません。
 例えば、減価償却費について損金の額に算入する金額は、「その内国法人が当該事業年度においてその償却費として損金経理をした金額」とされており(法法31条1項)、税法上の償却限度額内で損金経理した金額が損金の額となります。

 

(2)問題の所在

 貸倒損失には、「債権の回収ができないことが明らかとなった事業年度中に貸倒れとして損金経理をしておかなければ、その後になって、当該債権についてこれを貸倒損失金であるとする主張がし得なくなるものと解すべき実定法上の根拠はない」(東京地判平元年7月24日 税務訴訟資料173号292頁)と判示されるように、損金経理を要件とする法律上の根拠がありません。一方で、法基通9ー6ー2~3は「損金経理をすることができる」ないし「損金経理をしたときは、これを認める」としており、損金経理を要件としていますが、これはなぜでしょうか。

 

(3)通達のいう「損金経理」の位置付け

ア 判断の大枠

 法基通9ー6ー2によれば、「金銭債権につき‥その全額が回収できないことが明らかになったとき」に損金経理をすることができるとあります。この「回収できないことが明らかになったとき」とは、「債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らか」でないければならず、また、「その全額が回収不能であることは客観的に明らかでなければならないが、そのことは、債務者の資産状況、支払能力等の債務者側の事情のみならず、債権回収に必要な労力、債権額と取立費用との比較衝量、債権回収を強行することによって生ずる他の債権者とのあつれきなどによる経営的損失等といった債権者側の事情、経済的環境等も踏まえ、社会通念にしたがって総合的に判断される」(最小判平16年12月24日民集58巻9号2637頁)こととされています。

 

イ 損金経理の位置付け

 東京地判昭57年4月26日税務訴訟資料142号2093頁は、全額回収の見込みがないことが確実であることが必要で、「単に回収困難の程度では貸倒損失を認めるべきではない」としつつ、「貸倒損失の認定上、損金経理や確定申告は法律上の要件とされていないものの、貸倒れの有無は、これについて直接の利害を有し、回収の能否に最大の関心を有しているはずの債権者において最も的確に把握していると見られるから、こうした債権者が貸倒れや、また、それに至らないまでも回収困難な債権の処理につき一定の方式を採用しているにも関わらず、いまだその処理に至っていないような場合には、特段の事情が認められない限り、貸倒れ状態はいまだ到来していないとみるのが相当」としています。
 ある債権が回収不能であるか否かについて納税者に一定の判断基準があるとき、その基準は、納税者がその有する債権の回収可能性について諸々の要素を考慮して設定しているものと考えられます。そして、このとき考慮される要素は、おおむね前掲最小判平16年12月24日があげたような事情をも考慮したものとなっていると考えられます。
 そうすると、そのような判断基準の下で、納税者において貸倒れの処理が行われていない場合には、「特段の事情がない限り、貸倒れ状態はいまだ到来していない」(前掲東京地判昭57年4月26日)というように、貸倒状態に至ってないことについての推定を働かせているという理解になろうかと思います。
 したがって、通達9-6-2~3が損金経理要件を規定しているのは、損金経理をしていなければ、未だ貸倒れ状態に至っていないとの推定が働くからということになります。すなわち、貸倒れの場合に要求される損金経理要件は、減価償却費の場合等の損金経理要件とは異なり、貸倒れ状態の推定に関する要件であることになります。

 このことから、課税庁は、納税者が損金経理をせずに貸倒損失を損金算入する申告書を提出した場合でも損金経理をしていないことのみから直ちに更正することはできず、貸倒れが生じたといえるだけの「特段の事情」が認められないということを確認する必要があるものと考えられます。


 ※もっとも、このような理解をする場合には、通達の書きぶりと矛盾します。通達9ー6ー2は「回収できないことが明らかになった場合には、‥損金経理をすることができる」としており、「損金経理をしているときは、回収できないことが明らかである場合として取り扱う(あるいは推定する)」とはしていないからです。

*1:法法22条3項 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。
・・・
三 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの

*2:法法33条1項 内国法人がその有する資産の評価換えをしてその帳簿価額を減額した場合には、その減額した部分の金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。

*3:法法33条3項 内国法人がその有する資産につき更生計画認可の決定があつたことにより会社更生法又は金融機関等の更生手続の特例等に関する法律の規定に従つて行う評価換えをしてその帳簿価額を減額した場合には、その減額した部分の金額は、第一項の規定にかかわらず、その評価換えをした日の属する事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。

*4:法基通9-6-1 法人の有する金銭債権について次に掲げる事実が発生した場合には、その金銭債権の額のうち次に掲げる金額は、その事実の発生した日の属する事業年度において貸倒れとして損金の額に算入する。

(1) 更生計画認可の決定又は再生計画認可の決定があった場合において、これらの決定により切り捨てられることとなった部分の金額

(2) 特別清算に係る協定の認可の決定があった場合において、この決定により切り捨てられることとなった部分の金額

(3) 法令の規定による整理手続によらない関係者の協議決定で次に掲げるものにより切り捨てられることとなった部分の金額

イ 債権者集会の協議決定で合理的な基準により債務者の負債整理を定めているもの

ロ 行政機関又は金融機関その他の第三者のあっせんによる当事者間の協議により締結された契約でその内容がイに準ずるもの

(4) 債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合において、その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額

*5:法基通9-6-2 法人の有する金銭債権につき、その債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合には、その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理をすることができる。この場合において、当該金銭債権について担保物があるときは、その担保物を処分した後でなければ貸倒れとして損金経理をすることはできないものとする。

(注) 保証債務は、現実にこれを履行した後でなければ貸倒れの対象にすることはできないことに留意する。

*6:法基通9-6-3 債務者について次に掲げる事実が発生した場合には、その債務者に対して有する売掛債権(売掛金、未収請負金その他これらに準ずる債権をいい、貸付金その他これに準ずる債権を含まない。以下9-6-3において同じ。)について法人が当該売掛債権の額から備忘価額を控除した残額を貸倒れとして損金経理をしたときは、これを認める。

(1) 債務者との取引を停止した時(最後の弁済期又は最後の弁済の時が当該停止をした時以後である場合には、これらのうち最も遅い時)以後1年以上経過した場合(当該売掛債権について担保物のある場合を除く。)

(2) 法人が同一地域の債務者について有する当該売掛債権の総額がその取立てのために要する旅費その他の費用に満たない場合において、当該債務者に対し支払を督促したにもかかわらず弁済がないとき

(注) (1)の取引の停止は、継続的な取引を行っていた債務者につきその資産状況、支払能力等が悪化したためその後の取引を停止するに至った場合をいうのであるから、例えば不動産取引のようにたまたま取引を行った債務者に対して有する当該取引に係る売掛債権については、この取扱いの適用はない。