収益の帰属時期

  

1 要約

・収益の帰属時期については、法人税法上権利確定主義がとられている。

棚卸資産の引渡しがいつ行われたか明らかでない場合、諸事情の総合考慮により当事者の合意を探ることになる。

 

2 収益の帰属時期

(1)概説

 収益、費用および損失等をどの年度に帰属させるかについては、法人税法は一般的な規定を置いていません。そこで「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」(法人税法22条4項)により、発生主義により認識をすべきと考えられます(金子337頁)。そして発生主義会計において収益は実現原則に従って認識されます。具体的には、①財やサービスの移転を通じて履行義務を充足したこと及び②移転した財やサービスと交換に企業が権利を有する対価を獲得したことの2つの要件を満たしたときに、収益が実現したものとされ、認識されることとなります(桜井78頁)。

 以上の会計処理の基準を踏まえて、法人税法上所得の発生の時点をどのように判断するかが問題となります。これについては「所得税法の場合と同様に、所得の実現の時点を基準とすべきであり、原則として、財貨の移転や役務の提供などによって債権が確定したときに収益が発生すると解すべき」(金子337頁)、「収益は、その実現があった時、すなわち、その収入すべき権利が確定したときの属する年度の益金に計上すべきものと考えられる」(最判平5年11月25日民集47巻9号5278頁)とされ、いわゆる権利確定主義がとられていると解されており、上に述べた実現原則とほぼ同様の考え方をとっているものと思われます。

 

(2)棚卸資産

 以上の一般論を前提に、個々の取引の中でどのような事情をもって権利の確定とするかが問題となりますが、以下では特に不動産取引における棚卸資産について検討します。

 上に述べた実現の2要件及び法基通2ー1ー2*1を考えると、棚卸資産の「引渡し」の時期が収益認識の時期になると考えられます。

 そうすると、この「引渡し」がどのようなものであるかが明らかにされる必要があります。代金支払、不動産引渡し、移転登記等が同時に行われて取引が一時に完了するような場合にはその一時点で引渡しがされたとして問題ありませんが、そのような場合ではなく、給付が複数回に渡って行われた場合に何をもって引渡しとすべきなのでしょうか。

 

3 要件基準

(1)要件

 下記の裁判例を参考とすれば、各契約当事者の給付が段階的に複数回に分けて行われ、外見上引渡しがいつ行われたか必ずしも明らかでない場合には、

 所有権の移転時期、

 代金支払の約定及び実際の支払状況、

 登記関係書類や建物の鍵の引渡しの状況、

 危険負担の移転時期、

 果実収受権及び費用負担の移転時期、

 所有権移転登記の時期

等を考慮して、現実の支配の移転時期の合意内容について判断し、その合意された時期をもって引渡しの時期とすることになります。

 

(2)裁判例(東京高裁平10年7月1日判タ1036号316頁)

ア 事案の概要

 省略

イ 判示事項

(要件に付した番号は筆者による)

 「各契約当事者の給付が段階的に複数回に分けて行われ、外見上引渡しがいつ行われたか必ずしも明らかでない場合…には、①契約上買主に所有権がいつ移転するものとされているかということだけではなく、②代金の支払に関する約定の内容及び実際の支払状況、③登記関係書類や建物の鍵の引渡しの状況、④危険負担の移転時期、⑤当該不動産から生ずる果実の収受権や当該不動産にかかる経費の負担の売主から買主への移転時期、所有権の移転登記の時期等の取引に関する諸事情を考慮し、当該不動産の現実の支配がいつ移転したかを判断し、右現実の支配が移転した時期をもって当該不動産の引渡しがあったものと判断するのが相当である。」

 一方で、①契約において引渡し時期は明示されていないこと、②総額55億円、契約成立時に着手金5億円、昭和62年9月11日に中間金10億円を支払うこととされ、40億円分の抵当権が設定されており、原告の手取り収入は15億円となること、③登記関係書類、鍵の引渡し、賃借に人への貸主変更通知などは一切行われていないこと、④昭和62年9月11日以降、引渡し前の売主及び買主の責めによらない事由によって滅失又は毀損した場合の危険を負担すること、⑤買主は昭和62年9月11日以降の公訴公課、立退費用のほか、本来所有者に対して発生する一切の費用を負担することの各事実が認定されていました。

 ②④⑤から、「本件不動産の売買は、抵当権付きの不動産の売買と同視することができるものであり」、その他の事情すべてを考えあわせると、原告と買主の間では、買主が本件不動産の代金額から抵当権の被担保債権額を差し引いた金額を支払ったことにより、本件不動産の現実の支配権を買主に移転する合意があったものと認めるのが相当であるとしました。

 

*1:法基通2-1-2 棚卸資産の販売に係る収益の額は、その引渡しがあった日の属する事業年度の益金の額に算入するのであるが、その引渡しの日がいつであるかについては、例えば出荷した日、船積みをした日、相手方に着荷した日、相手方が検収した日、相手方において使用収益ができることとなった日等当該棚卸資産の種類及び性質、その販売に係る契約の内容等に応じその引渡しの日として合理的であると認められる日のうち法人が継続してその収益計上を行うこととしている日によるものとする。この場合において、当該棚卸資産が土地又は土地の上に存する権利であり、その引渡しの日がいつであるかが明らかでないときは、次に掲げる日のうちいずれか早い日にその引渡しがあったものとすることができる。

(1) 代金の相当部分(おおむね50%以上)を収受するに至った日

(2) 所有権移転登記の申請(その登記の申請に必要な書類の相手方への交付を含む。)をした日