質問検査権

 

1 要約

・質問検査権は「調査について必要があるとき」に認められる。

・その行使において違法がある場合には、一定の場合に更正・決定が違法となりうるし、国家賠償請求の対象となる場合もありうる。

 

2 質問検査権

(1)定義

 質問検査権(税通74条の2)*1とは、「課税要件事実について関係者に質問し、関係の物件を検査する権限」をいいます(金子905頁)。

 

(2)性質

 いわゆる任意調査を認めるものであって、強制調査を認めるものではありません。ここに強制調査とは、相手方の意に反して事業所等に立ち入り、各種物件を検査することをいい、任意調査とは強制調査でないものをいうものと考えられます。

 相手方の意に反する質問検査権を認めていない点で直接の強制力はないものの、刑罰(税通127条2号・3号等)を背景とした検査受任義務があり、間接強制調査と表現されることもあります。

 

(3)承諾について

 任意調査には、その定義から、相手方の承諾が必要とされます。

 この承諾について黙示のものでも許されるのかという問題がありますが、肯定的に解すべきでしょう。もっとも、納税義務者本人の業務に従事する家族、従業員等である場合には「質問検査権の行使が納税義務者本人の承諾が得られないことを回避する手段、目的でなされることのないよう特別の配慮をすることが望ましく、したがって、納税義務者本人の事前の承諾が得られていない場合における納税義務者本人の業務に従事する家族、従業員等における黙示の承諾の有無については、その具体的状況を勘案したうえで、慎重に判断する必要がある」とされます(大阪高判平10年3月19日判タ1014合183頁)。

 

3 要件基準

 以下で若干の論点について判例及び裁判例を基に解説を行います。

(1)「調査について必要があるとき」

ア 意義

 「調査について必要があるとき」とは、「国税庁国税局または税務署の調査権限を有する職員において、客観的な必要性があると判断される場合」をいいます。そして、この客観的な必要性は、「当該調査の目的、調査すべき事項、申請、申告の体裁内容、帳簿等の記入保存状況、相手方の事業の形態等諸般の具体的事情にかんがみ」て判断されるとするのが判例最判昭48年7月10日刑集27巻7号1205頁)です。

イ 具体的な内容

 もっとも、「客観的な必要性」という表現は抽象的な基準にとどまっており、上掲最判昭48年7月10日がそうであったように、過少申告の疑いが存在する場合に限られるかは示されていません。

 この点について、「確定申告後に行われる法人税に関する調査については、過少申告等の疑いがある場合のみならず、当初からそのような疑いが明らかではないが、申告の真実性、正確性を確認する必要がある場合も含まれると解すべき」とした裁判例(横浜地判平10年1月26日税資230号87頁)があるほか、税通74条の9第1項第3号の通知すべき「調査の目的」*2の内容について、税通令30条の4第2項が「納税申告書の記載内容の確認又は納税申告書の提出がない場合における納税義務の有無の確認その他これらに類する調査の目的を、それぞれ通知する」としていることからすれば、過少申告の疑いが明らかである場合に限られず、申告の適否の確認をするということだけでも客観的な必要性があるとするのが現状の運用と思われます。

 

(2)行使の時期等の制限

 (1)に述べた必要性が認められる場合に、さらにその調査の時期等の妥当性については、「質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、右にいう質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衝量において社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられている」との上掲最判昭48年7月10日を参考に判断することになります。

 

(3)違法があった場合

 質問検査権は、調査のための権限であるので、たとえ違法なものであったとしても、それに基づく更正・決定が必ずしも違法になるとはいえません。もっとも、「質問・検査がその前提要件を欠く場合(たとえば、相手方の意に反して検査を強行した場合)など著しい違法性を有する場合は、それに基づく更正・決定は違法になると解すべき」とされます(金子914頁)。

 拒否されていたにもかかわらず、居住部部分に立入り、下着を入れている引出しをかき回す等の調査をしたことについて青色取消処分が取消されたものとして京都地判平成12年2月25日(訟月46巻9号3724頁)がある。この裁判例では、青色取消しの要件である帳簿備付けの不備の意味について、課税庁が常識的な対応をしてるのに納税者が出してこないということと捉え、課税庁の調査の全過程を見てその手法に問題点がなかったかを総合的に判断しています。

*1:税通74条の2第1項 国税庁国税局若しくは税務署(以下「国税庁等」という。)…の当該職員…は、所得税法人税、地方法人税又は消費税に関する調査について必要があるときは、次の各号に掲げる調査の区分に応じ、当該各号に定める者に質問し、その者の事業に関する帳簿書類その他の物件…を検査し、又は当該物件(その写しを含む。次条から第七十四条の六まで(当該職員の質問検査権)において同じ。)の提示若しくは提出を求めることができる。

*2:税務署長等…は、…当該職員…に納税義務者に対し実地の調査…において第74条の2から第74条の6まで(当該職員の質問検査権)の規定による質問、検査又は提示若しくは提出の要求(以下「質問検査等」という。)を行わせる場合には、あらかじめ、当該納税義務者…に対し、その旨及び次に掲げる事項を通知するものとする。
三 調査の目的