法人税法で認められる役員給与

 役員給与は株主総会等で決定した金額を支給することとなりますが、法人税法上、一定の類型のものしか損金に算入できません。このページでは損金に算入できる役員給与にはどのようなものがあるのか、留意点とともに説明します。

 ピンポイントで知りたいことがある場合は、末尾のFAQをご覧ください。

 なお、文中で使っている略称は以下のとおりです。
   法法 … 法人税法
   法令 … 法人税法施行令
   訟月 … 訟務月報

 

 

1 役員給与の概要

 以下に損金に算入できる役員給与の一覧を示し、概要の把握のため「イメージ」として典型的な使用例を表現しています。このうち、業績連動給与は同族会社では適用できませんから、説明を割愛します。
 なお、法人税法上の役員の範囲については、(参考1)を確認してください。

役員給与の一覧

 役員給与について損金算入できる類型が限定されているのは、恣意的な金額変更による利益調整を防止する趣旨と考えられています。恣意性を排除するために、事前に株主総会で確定した給与に限って損金算入するということ(事前確定)を原則としたうえで、定期同額であれば例外的に損金として認めています。これは、定期かつ同額の支給であれば、事前に決まっていたことが推定されるほか、恣意的な支給額の変更が難しいため、利益調整のおそれが少ないからです。

 

2 給与の改定

 事前確定届出給与・定期同額給与のいずれにおいても、金額改定ができる事由について規制が設けられています。まとめると以下の表のとおりです。

改定事由

 臨時改定事由と業績悪化改定事由の期限とは、事前確定届出給与の変更の届出を税務署に提出するまでの期限です。

 

(1) 臨時改定事由

 当該事業年度において当該内国法人の役員の職制上の地位の変更、その役員の職務の内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情をいいます(法令69条①一ロ、同⑤一)。

 「やむを得ない事情」とは、たとえば、病気等による職務執行状況の変化や懲戒処分による減給等をいいます。

 

(2) 業績悪化改定事由

 当該事業年度において当該内国法人の経営の状況が著しく悪化したことその他これに類する理由をいいます(法令69⑤一ハ、同⑤ニ)。国税庁から具体例*1が出ていますが、いずれにせよ、経営状況の著しい悪化等についての経緯や判断の根拠に関する書類の確実な保存が求められます。

 

(3) 通常改定事由

 当該事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から3月を経過する日までにされた定期給与の額の改定をいいます。定期同額給与にのみ認められる改定事由です。
 なお、3月を経過した日以降は、「特別の事情」の認められる場合に改定が認められます(法令69①一イ、法基通9-2-12-2)が、この場合の改定は継続して毎年所定の時期に行われていることが必要とされ、例えば親会社の株主総会の結果を踏まえた子会社の給与改定等がこれにあたります。

 ちなみに、毎年間に合わない場合の他、例年であれば3ヶ月以内に間に合っていたのに今年に限って特別の事情があって間に合わなかった場合も対象です。たとえば、新型コロナウイルスによる影響で給与改定が遅れた場合も特別の事情にあたる旨Q&Aで示されています*2

 

3 事前確定届出給与

(1) 定義

 役員の職務につき所定の時期に、確定した額の金銭を支給する旨の定めに基づいて支給する給与で、届出期限までに所轄税務署長に届出をしているものをいいます(法法34①二)。

 この類型の給与が損金に算入される要件は、㋐事前に㋑確定したところに基づいて㋒届出をし、㋓その届出のとおりに支給をすることです。

(2) 要件

ア 事前性

 支給される給与が事前性を有する必要があります。すなわち、将来の職務執行の対価として、職務執行開始より前に定める必要があります。

イ 確定

 定款の規定又は株主総会等の決議を要します(会社法361)。定款で定められていることは稀ですから、ほとんどの中小企業では株主総会決議で決めることとなります。株主総会「等」とされるのは、株主総会で上限のみを定め、個人への配分を取締役会等に委任する方式によることもできるためです*3

ウ 届出

 株主総会決議の日か職務執行開始日のいずれか早い日から1月を経過する日です。

 多くの場合、総会決議日と職務執行開始の日は近い日にちになりますから、株主総会等の支給決議をした日から1月を経過する日が届出の期限となり、事業年度開始後4月が限度です(法令69④一)。

エ 届出どおりの支給

 届け出た支給額と実際の支給額が異なる場合には、原則としてその支給額の全額が損金不算入になると解されています(法基通9-2-14)。事業年度中に複数回支給がある場合、そのいずれもが届出支給額と一致する必要があり、個々の支給額が届出額を超過している場合はもちろん、不足している場合も損金不算入となります*4 。枠取りをしてその範囲で利益調整を行うことを防ぐためです。

 なお事業年度をまたぐ複数回支給について、課税上の弊害がないことから、一部の損金算入を認めるとした質疑応答事例があります *5

 

4 定期同額給与

(1) 定義

 支給時期が1月以下の一定の期間ごとである給与で当該事業年度の各支給時期における支給額が同額であるものその他これに準ずるものとして政令で定める給与をいいます(法法34①一)。

 準ずるものとして政令で定められる「継続的に供与される経済的な利益のうち、その供与される利益の額が毎月おおむね一定であるもの」(法令69①ニ)とは「債務の免除による利益その他の経済的な利益」(法法34④、同36)のうちの一部です(法基通9-2-11)。典型的には、無償での役務提供や家賃の不徴収であり、継続的な受益を観念できない債務免除額等は除かれています。

(2) 否認対象

 定期かつ同額でないものはその全額が損金不算入という解釈が本来的なものですが、実務上、最低支給額を超える各支給額の合計額のみを否認対象としています。
以下の図で見ると、この事業年度の最低支給額は10月の30万円ですから、各月で30万円を超える緑色の金額が損金不算入額となります。

否認対象

 

5 過大役員給与の損金不算入

 以上のような支給方法に関する規制のほか、支給された役員給与のうち過大と評価される部分についても損金不算入となります(法法34②)。どのような場合に過大とするかの基準には形式基準と実質基準とがあり、それぞれの基準で過大額を計算した上で、より大きい金額を損金不算入額とします(法令70一)。

(1) 形式基準(法令70一ロ)

 株主総会決議等により役員に対する給与として定めた金額を超える部分の金額を過大とする基準をいいます。役員給与は株主総会での決議が必要とされる(会社法361①)ことから、法人税法上もその決議で定められた金額を超えるものは過大なものと評価しています。

(2) 実質基準(法令70一イ)

 当該役員の職務に対する対価として相当であると認められる金額を超える金額を過大とする基準をいいます。相当額については、実務上、当該法人所在地の管轄税務署管内(及び近隣税務署管内)に本店が所在する同業の法人で、かつ、売上金額が当該法人の売上金額の0.5倍以上2倍以内である法人の、当該役員と同種の役員に対する支給額を抽出し、その平均額とする手法が用いられています*6


6 役員の勤務実態

 同族会社の場合には役員給与が過大かどうかよりも、そもそも勤務実態があるのかが頻繁に問題となります。税務調査の際には、当該役員の組織内での役割、業務内容、成果物、常勤・非常勤の別による通勤実態、配席・内線番号、勤怠管理等の資料による疎明が必要となりますので、注意が必要です。

 

(参考) 法人税法上の役員

 法人税法の役員給与規制においては、会社法に定める役員に加えてみなし役員を定めるとともに、会社法上の役員のうち使用人兼務役員についてはその使用人部分を規制対象から外しています。

税法上の役員

 会社法上の役員については法人税法上もそのまま役員とされます(法法2十五)。このほか、以下のみなし役員と使用人兼務役員について法人税法上の取扱いがあります。
たとえば同族会社における社長の息子のように、使用人ではあるものの大株主で経営にも従事しているということがあり得ます。このような人達は、一使用人であるにしても、法人の経営に多大な影響を及ぼしますから、税法上はこれも役員とみなしています(法法2十五、法令7)。

 一方、使用人兼務役員については、役員給与とは別に使用人としての給与支給を認めていますが、この使用人兼務役員になれない場合が定められています(法法34⑥)。

 

 

 

【FAQ】役員給与に関連したFAQ

Q. 損金に算入できる役員給与にはどのようなものがありますか。

A. 損金に算入できる役員給与は全部で3種類あり、まとめると以下のとおりです。

役員給与の種類

 このうち、利益連動給与は同族会社では使えませんから、多くの中小企業では意識する必要はありません。したがって、実質的には事前確定届出給与と定期同額給与が損金算入が可能な役員給与ということになります。

 それぞれの給与のイメージは表中にあるとおりで、普通の従業員の月給とボーナスに対応するものが支給できるような制度になっています。各給与の細かい要件は各FAQを参照してください。
 

Q 業績が悪いので役員の月給を下げたいのですが、注意点はありますか?

A 業績の悪化を理由とする役員給与の改定は、「経営の状況が著しく悪化したことその他これに類する理由」がある場合に限り認められます(法令69⑤一ハ、同⑤ニ)。また、毎月の給与にあたらず税務署に事前に届出をしているボーナスのような給与については給与変更の決議から1ヶ月以内に変更の届出を出さなければなりません。


 

Q 事前確定届出給与の実際支給額が0のときどのような処理が必要ですか。

A 

*1:国税庁「役員給与に関するQ&A(平成20年12月)(平成24年4月改訂)」

*2: 国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ 5ー問7 

*3:個人別の報酬額が明らかになるのを嫌がる等の理由によります。報酬額について株主総会決議によることの理由が取締役による「お手盛り」の防止にあり、総額さえ決めていればその目的を達成できることから判例上も認められています。

*4:東京地判平24.10.9(訟月59巻12号3182頁)

*5:国税庁質疑応答事例「定めどおりに支給されたかどうかの判定(事前確定届出給与)」

*6:いわゆる倍半基準といわれるもので、平14.6.13裁決(裁決事例集No.63 309頁)等が参考となります。